In Other Waters、クリアしてのプレイ感想です。
3Dの美麗グラフィックで表現される世界も良いものですが、文字とシンプルな画面上から伝わる雰囲気だけでもここまで美しい世界を描くことができるんだ……と衝撃を受けたゲームでした。
一言感想:文字から”見える”世界と生命の美しさ。
あらすじ
『In Other Waters』は、神秘的な惑星にて行方不明となったパートナーを探し出すスタイリッシュなアドベンチャーゲームだ。
生物学者であるエラリー・ヴァスは、パートナーのミナエ・ノムラ博士から発信されたメッセージを辿って惑星「グリーゼ667Cc」の海底を訪れることとなる。
あなたは故障したダイビングスーツに搭載されたAIとしてエラリーの手助けをしながら、独自の生態系が発達する異星の海を漂う物語を体験していく。地球外生命体を調査し、その性質を利用することで新しい道を見つけ出せば、ミナエの残していったさまざまな残骸を見つけることができる。
そして、海の底に秘められた真実をエラリーと共に目撃しよう。
『In Other Waters』Steam版 説明文より引用
ゲームについて
・日本語音声……音声自体なし
・日本語字幕……あり。プレイ中は物凄く沢山の文字を読む事になりますが、ローカライズの質が非常に良いです。
・主人公……エラリー・ヴァス。女性の生物学者。
・プレイヤー……エラリーのスーツに搭載されているAI。言葉は喋る事ができないものの、簡単な意思疎通ができる。
プレイヤーはエラリーのAIとなって彼女が進むべき道を示します。
生物学者であるエラリーが異星の生き物たちのデータを書き留めていく様子を眺めながら、一緒にミナエ・ノムラ博士を捜していきます。
合う合わないがかなりはっきり分かれる類のゲームではありますが、挿絵のない小説を読むのが好き、SFが好き、想像力を働かせるのが好きな方はきっと気に入るのではないでしょうか。
探索するゲームで手に入れた物や書物の説明文を嬉々として読み込んではプレイ時間を重ねるタイプの方に向いていると思います。
女性同士のエラリーとミナエ・ノムラ博士の間にある複雑な感情と関係性にもぜひ注目してほしい作品です。
プレイヤーがAIであるせいか、このゲームの視覚情報は非常にシンプル。
↑上記スクリーンショットの中央に描かれた青いメモリのついた丸……の更に中心にある黄色い丸が、主人公となるエラリー・ヴァスです。
エラリーの姿も、エラリーが語ってくれる「美しい世界」も、プレイヤーは自分の目で見る事は出来ません。
それでも、このゲームが合う方にとって画面上の黄色い丸は確かに生命となり、愛しい存在に変わるはずです。
操作方法に関しては一切説明がありません。
周囲をスキャン→進めそうな場所を見つけたらそちらへ進む の繰り返しで先へ進んでいくようです。
そうそう酷い事にはならないので、押せるボタンはどんどん押してみましょう。
採取したサンプルは研究したり、自分に使えたり、周囲に使えたりします。
感想(※この先ネタバレあり)
舞台となっているグリーゼ667Ccは2011年に発見された、実在する星だそうです。
Wikipediaのこちらの項目↓にも載っていました。
BGM
別会社のゲーム、サブ○ーティカを遊んだ時も感じたのですが、海という神秘的な場所を舞台にしているゲームではBGMが非常に重要な意味を持ちますね。
In Other Watersで使われているBGMもとても綺麗で心地の良い音楽ばかりです。
中でも一番好きなのは『A Drifting Lens』。この浮遊感はすごい。
クリア後感想(※この先は重大なネタバレあり)
※この先はストーリーの重大なネタバレを含みます。
上記の通り、クリアタイムは9時間55分でした。
方向感覚がしっかりしていて察するのが早い方なら4~5時間くらいで終わるようです。
最初は1時間くらい遊び方がよくわからずただたださまよっていました。
最低限の視覚情報と音楽、落ち着いた色合いにリラックス効果があるのか夜寝る前に遊ぼうとすると睡魔が襲って来て全然進まなかったので、眠気のない休日の昼間に遊ぶことが多かったです。
積みゲーが増えすぎて途方に暮れていた時、「難易度はそんなに高くない」「所要時間短め」というレビューを見かけたので「よっしゃ!じゃあ崩すか!」という気持ちで始めたものの、壊滅的な方向音痴さを遺憾なく発揮してしまいました。
一応拠点内で地図っぽいものが見られるものの探索に入ってしまうと全体図が見えないので今自分がどこに居るのかわからなくて何度も行き詰まり、先人の知恵を借りようにもシンプルなゲームだからか攻略情報を載せている方はおらず……。
最後まで手探り状態でしたが、なんとかなって良かったです。
文字を読むのは大好きなのですが頭脳が足りないので、自分がエラリーが記してくれた記録をきちんと理解しその姿や生態を正確に想像できているか否かは怪しいです。
ただ、知らない世界の知らない生き物たちの記録を読むのはやはり好きだなぁと思いました。
ゲーム進行には一切関係ないものの、出会った人や物が図鑑等に記録されるシステム+その説明文をじっくり読むのが好きなタイプの方には刺さりそう。
研究を進めていくと見ることが出来るエラリーのスケッチを見て、彼らはいったいどういう色をしているんだろうかと頭の中で空想するのも楽しかったです。
終盤、医務室に運んだミナエが徐々に変化していく様はAIであるプレイヤーには見ることが出来ません。
医務室内の黄色い点が増えていき、生命反応が異常な数値を示していることしかわかりません。
でも、エラリーがそんなミナエを「すごくきれい」と表現していたのが忘れられません。
たった一言。それでも、なんて美しい関係性の表現なんだろうかと思いました。
あの言葉で、エラリーがミナエのことをどう思っているのかわかって、ただの黄色い丸で表現されるふたりが一気に愛おしくなりました。
ストーリーはシンプルながら、とても良かったです。
この話における地球の海はもう死に絶えていて海洋生物は観光地にしか居ない、という情報から新世紀エヴァ○ゲリオンの赤い海を想像しました。
母なる海の生き物が死んでしまうほどダメージを受けた地球から移住するため、あるいは地球を延命する為に、見つけた他の星の資源や生命を当たり前のように“地球の人類”のために使おうとした結果起きた虐殺。
「人類はこの星に値しない。生命を見つける資格なんてなかった」
というエラリーの言葉が心に残りました。
人類はどこまでも欲深い。
普段から寄り道できそうなところはストーリーそっちのけで行ってみるというプレイの仕方をしている事が功を奏したのか、今回はクリアと同時に達成率が100%になりエンディングを見る事が出来ました。
タイトル画面で静かに動く無数の黄色い点たち。
エラリーの言う「美しい生命」たち。
拠点に居ると、研究室を忙しなく歩き回ったり部屋で休んでいたりするエラリーを表している黄色い点。
プレイヤーに伝わるのはあくまでも“黄色い点”なのに、エラリーが終盤に話してくれた幼少期の思い出や記録に綴られた両親への思いにわたしが涙してしまったのは、その“黄色い点”を確かに生命として見ていたからだろうと思います。
突然外から齎された絶滅の危機を必死に乗り越えて踏み止まろうとする命を、彼らの美しさを、プレイヤーは見ることが出来ないけれど、エラリーが話してくれる言葉や記録からありありと想像することが出来る。
これは”ゲーム”であるからこそできた、とても不思議な体験だと思いました。
素敵なゲームでした。
おしまい。
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記事内で言及したゲームについての記事はこちら。