(作者: くらやみ横丁 めめ様/くらやみ横丁:ウミユリクラゲ 丹酌 様)
フリーゲーム、無限夜行を遊んでいました。
ゲーム紹介と感想です。
ゲームについて
夏の夕暮れ、小学4年生の悠太と小学6年生の兄は子供2人だけで祖父母の家へ遊びに行くことになります。
ところが2人が乗った電車は祖父母の家へ向かう電車ではなく、『無限夜行』と呼ばれる、終着駅を持たない不思議な電車でした。
目的地の切符を持っていなければ永遠に目的の場所へ辿り着けない無限夜行で『切符泥棒』に切符を盗まれ、自分たちの生きていた世界の記憶を失っていく悠太たち。
果たして彼らが向かう旅の終着は……。
選択肢のないノベルゲーム。
圧倒的な文章力と場面に合った写真、イラスト、BGMで紡がれる奇妙で不思議な物語。
良質な挿絵付き小説を読んでいるような気持ちで遊ぶことができます。
プレイ時間目安は約90分とのことです。
感想(※ネタバレあり)
※特にネタバレになりそうなところは反転
読み終わるまで、私の場合は想定時間の+1時間で2時間半ほど。
美しい夜や不思議な景色、街並みの描写を隅々まで堪能したくて、休日のお昼に時間をかけて一気に読みました。
トップ画面のイラストから幻想的で儚い雰囲気が感じ取れて素晴らしい。
製作者の1人、宵町めめ先生は漫画家さんなんですね。
公式サイトを拝見したところ、作品に【夜の人】というワードや【あの駅員さん】らしき人の姿が見えるという事は世界観が共有された物語の漫画もお描きになっているのでしょうか。いつか手に取ってみたい……。
良質な文庫本を1冊読んだ時のような気持ちでした。
子供心に湧き上がる不安や好奇心、子供の頃に確かに感じていた、宝物のような夏の日の情景。
そういった情景描写や、悠太と兄と千夏の仲睦まじい様子から、これは子供たちの一夏の冒険物語だと思い込んで読み始めたので中盤以降の展開にはどきりとしました。
小4の子の目線にしては文章が大人びすぎているかな……とも感じましたが、冒頭の悠太の独白のような文章を思い返し、これは成長した悠太の回想なのかもしれないと考え直しました。
登場人物への印象が次々に変わり、ところどころに覗く小さな綻びや疑念は最後に霧が晴れるように解決していきました。
【……啓介が取り戻した記憶は無限夜行で時を過ごすうちにまた失われるのでしょうか。恐らく彼の存在自体は両親や周囲の人の記憶に蘇るとまずいことになると思うので、悠太以外の記憶から消えたままなのだろうとは思うのですが……】。
【“あの夏”の時、啓介と悠太は幼すぎたのだろうなと思います。だから啓介は千夏に、悠太は啓介に、あんなに残酷で心の無いことをしてしまえた。人や物を傷つけたり何か大きな失敗をしたり、今更考えてもどうしようもないような子供の頃の記憶ってきっと誰にでもあると思うのですが、彼らの場合はそれが取り返しのつかない結果を招いてしまった。悲しい話だと思います】。
子供たちがそれぞれ選び取った結末。
得たもの、失ったもの。
二度と忘れないもの、二度と戻らないもの。
最後に【たった独りで電車を降りていく事になった悠太がその後どういう人生を歩んだのかはわかりませんが、兄の事も千夏のことも啓介の事も不思議な電車の事も、きっともう二度と忘れることはなかったのだろうと信じたいです】。